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大阪地方裁判所 昭和52年(ワ)6592号 判決

原告 大松金属商事株式会社

右代表者代表取締役 松本一郎

原告 松本一郎

右両名訴訟代理人弁護士 畑良武

同 丸山和也

同 中迫広

原告松本一郎訴訟代理人弁護士 岩本洋子

被告 株式会社アンサホンサービス(旧商号「株式会社アンサホンサービスプロダクシヨン」)

右代表者代表取締役 船橋善丸

右訴訟代理人弁護士 本渡諒一

主文

一、被告は原告大松金属商事株式会社に対し、金五〇万円及びこれに対する昭和五二年一二月一四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二、原告松本一郎に対する請求および原告大松金属商事株式会社のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用はこれを五分し、その一を被告の負担としその余は原告らの負担とする。

四、この判決は原告大松金属商事株式会社の勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、請求の趣旨

1.被告は原告らに対し、金一六九二万円及びこれに対する昭和五二年一二月一四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2.訴訟費用は被告の負担とする。

3.仮執行宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

1.原告らの請求を棄却する。

2.訴訟費用は原告らの請求とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1.原告大松金属商事株式会社(以下「原告会社」という)は自動販売機の製造・販売を目的とする株式会社であり、原告松本一郎(以下「原告松本」という)は同社の代表取締役である。被告はアンサホン(電話の自動応答録音装置)の販売・テレホンサービス(録音電話による宣伝業務)業務を主たる目的とする株式会社である。

2.被告は昭和四八年当時テレホンサービスの広告媒体としての有効性がまだ評価されていなかったことから得意先の開拓に苦慮していたところ、同年九月ころ、被告代表者船橋善丸は取引先であった原告らに対し、右業務の得意先の斡旋紹介を依頼し、原告らと被告との間に次の合意が成立した。

(1)原告らは被告のために右業務の得意先の斡旋紹介活動をする。

(2)原告らの斡旋紹介が契機となり、被告と右斡旋紹介先との間でテレホンサービス委託契約が成立した場合には、被告はその月間売上額の三〇パーセントに相当する額の報酬を毎月原告らに支払う。

3.原告松本は、昭和四八年一〇月ころから知人等に被告のテレホンサービス業務を説明し、被告及び被告代表者船橋を紹介する等の活動を始めたが、昭和四九年二月ころ、シヤープ株式会社(以下「シヤープ」という)に勤務している知人川畑明治にテレホンサービスの説明をし、その後船橋を川畑に紹介し、更に船橋又は被告会社営業部長藤沢巨人を同行して川畑に会ってシヤープの営業関係者の紹介を受け面談を重ね被告のために斡旋紹介活動をした結果、昭和四九年一〇月、被告とシヤープとの間にテレホンサービス委託契約が成立するに至った。

4.(1)被告のシヤープに対するテレホンサービス業務の売上は、昭和四九年一〇月から昭和五一年一月まで月額三五万円、同年二月から漸時増加し、昭和五一年一〇月からは月額四〇〇万円となった。

(2)したがって、原告らが被告に対し前記契約にもとづき請求できる報酬額は左の計算にしたがい合計一六九二万円となる。

昭和四九年一〇月から昭和五一年九月までの二四か月間につき

三五万円×二四か月×〇・三=二五二万円

昭和五一年一〇月から昭和五二年九月まで一二か月間につき

四〇〇万円×一二か月×〇・三=一四四〇万円

5.よって、原告らは被告に対し、右報酬金合計金一六九二万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五二年一二月一四日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求原因に対する認否

1.請求原因1は認める。

2.同2のうち、被告代表者船橋が原告らに対し得意先の紹介を依頼し、原告がこれに応じたことは認め、その余は否認する。

3.同3のうち、原告らが昭和四八年一〇月ころから被告のために斡旋紹介活動を始めたこと、原告松本が昭和四九年二月ころ船橋にシヤープの川畑を紹介したこと、昭和四九年一〇月被告とシヤープとの間にテレホンサービス委託契約が成立したことは認め、その余は否認する。

4.同4の(1)は認め、(2)は争う。

第三、証拠〈省略〉

理由

一、原告会社が自動販売機の製造販売を目的とする会社で、原告松本がその代表取締役であること、被告がアンサホンの販売、テレホンサービス業務を目的とする会社であること、昭和四八年九月ころ被告代表取締役である船橋が原告松本に対しテレホンサービス業務の得意先の斡旋紹介を依頼し、原告松本がこれに応じたことは、当事者間に争いがない。

二、原告らは、被告との間に、被告のためにテレホンサービス業務の得意先の斡旋紹介をし、右業務委託契約が成立した場合には、被告から売上額の三〇パーセントの報酬を受ける旨の合意があった旨主張し、原本の存在およびその成立に争いのない甲第二号証の二、原告松本本人尋問の結果、証人中多敏朗の証言には、右主張に沿う記載もしくは供述があるが、原告松本、証人中多敏朗の各供述はいずれも記憶が不正確で内容もあいまいな点が多くて措信できず、また甲第二号証の二は、原告松本から被告会社営業部長藤沢巨人にかけた電話内容を録取したものであるが、その内容は具体性を欠くうえ、原告松本による一方的誘導尋問の形でなされたもので、売上額の三〇パーセントの報酬を支払うとの合意を証明するに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。もっとも、被告代表者船橋の尋問結果によれぱ、船橋は原告会社代表取締役である原告松本に対し右業務の斡旋紹介を依頼した際、原告松本の斡旋紹介によって得意先を獲得でき委託契約が成立した時には、具体的内容は明らかにしなかったものの、何らかの謝礼をする旨話したこと、また船橋は原告松本の他にも知人らに得意先の斡旋紹介を依頼し、契約成立に至った時には何らかの謝礼をしていることが認められるから、被告は原告会社代表取締役としての原告松本の取引上の交際の広さに期待して、右業務の得意先の斡旋紹介を依頼し、原告ら主張のような具体的な額ないし基準は定めなかったが、得意先との委託契約が成立した場合には、前記立場の松本すなわち原告会社に対し、何らかの謝礼を支払う旨約したと認めるのが相当である。

三、原告松本が昭和四八年一〇月ころから知人等にテレホンサービス業務を説明し、被告および被告代表者船橋を紹介する等の斡旋紹介活動を始めていたこと、昭和四九年二月ころシヤープの川畑を船橋に紹介したこと、昭和四九年一〇月被告とシヤープとの間にテレホンサービス委託契約が成立するに至り、当初月間売上げ三〇万円であり、昭和五一年一〇月からは月額四〇〇万円となったことは当事者間に争いがない。

原告松本、被告代表者船橋各本人尋問の結果、証人川畑明治の証言によれぱ、原告松本の知人である数村享の友人で昭和四九年二月当時シヤープの海外事業本部生産企画部長であった川畑に対し、原告松本は電話連絡をしたうえシヤープを訪れ同人に面会し、同行した船橋を紹介したこと、船橋は川畑に自己紹介し被告会社の業務を説明し、シヤープのピー・アール関係の人の紹介を頼み、同人から国内宣伝担当の町田電子レンジ営業課長の紹介を受けたこと、船橋は町田およびシヤープ宣伝部員と面談を重ね、宣伝機関誌発行の話と並行してテレホンサービス業務の売込み活動をした結果、昭和四九年八月ころからテレホンサービス委託契約の話が本格化し、同年一〇月に成約に至ったことが認められ、かつ被告代表者船橋の尋問結果によれば収益率は売上げの二五パーセント程度であったことが認められる(右認定に反する証人中多敏朗の証言は、あいまいであって措信できない。)。

右事実によれば、原告松本が船橋を川畑に紹介したことを契機にして被告とシヤープの間にテレホンサービス委託契約が成立したのではあるが、原告松本は原告会社の営業活動に際しもしくはその合間に、被告のために斡旋紹介活動を行なったものであり、それはあくまで被告の得意先となる可能性のある知人の紹介、いわゆる「口利き」程度の活動にとどまり、仲立営業のごとく契約締結に至るまで斡旋紹介するものではなく、被告がシヤープとの間にテレホンサービス委託契約締結に至ったのも、その後の被告代表者船橋の売込活動によるところが大であったと認められる。

四、以上の認定事実にてらすと、原告会社(すなわち原告会社代表取締役としての原告松本)は被告の委任を受けて、具体的報酬額を定めることなく、原告会社の営業活動に関連して、被告のテレホンサービス業務の斡旋紹介活動をした結果、被告とシヤープとの間に委託契約が成立するに至ったものであるから、商法第五一二条を準用して、原告会社は被告に対し相当の報酬を請求することができるものと解するのが相当である。そして、相当な報酬とは、委託契約成立に至るまでの斡旋活動自体の難易度、原告の斡旋紹介活動に費した労力・期間、委託契約成立後の売上高・収益率、斡旋紹介先の得意先としての優良性等の諸般の事情を考慮して定むべきものと解されるところ、前示認定の各事実を総合すれば、被告が原告会社に支払うべき報酬額は金五〇万円をもって相当であると認める。

五、よって、原告会社の本訴請求は報酬金金五〇万円およびこれに対する本件委託契約成立後で、訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和五二年一二月一四日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、原告会社のその余の請求および原告松本の請求は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条本文を、仮執行宣言につき同法第一九六条第一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 仲江利政 裁判官 前川豪志 小池裕)

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